Googleマップの口コミで中傷されたとき、事業者はまず何をすべきか

なぜGoogleマップの口コミが中小企業にとって重いのか
Googleマップの口コミは、Google検索結果に表示されるビジネスプロフィールに常に紐づいて表示されます。
多くの人にとって、会社や店舗を検索した際に最初に目に入る情報であり、事務所・店舗の「第一印象」になりやすいものです。
中小企業の場合、特に次のような点で打撃が大きくなりがちです。
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口コミの絶対数が少ないため、一つの悪い口コミの影響が相対的に大きい
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採用・新規取引・融資打診の際に、必ずと言ってよいほどGoogleで社名や店舗名が検索される
つまり、「1件の口コミの重み」をどう捉え、どう向き合うかは、中小企業の経営にとって軽視できない課題です。
まずは感情的に反応せず、「証拠」と「事実関係」を整理する
嫌な口コミを見つけると、すぐに返信したり、投稿者が誰かを探したくなりますが、
まずは感情的な反応を抑え、「証拠」と「事実関係」を整理することが重要です。
最初に行っておきたいのは、次のような作業です。
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画面の保存
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スクリーンショット
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印刷用PDF など、後から内容を確認できる形で保存
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基本情報の記録
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URL
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投稿日時
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星の数
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投稿者名(ハンドルネーム)
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対象となっている店舗名
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同じ投稿者による他の書き込みの有無を確認
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自社への複数投稿だけでなく、他社への書き込み傾向も含めて確認すると参考になることがあります
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合わせて、「実際のサービスに問題はなかったか」という点も冷静に確認します。
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現場担当者へのヒアリング
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クレーム記録や社内メモとの照合
そのうえで、
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どこまでが客観的な「事実」か
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どこからが投稿者の「意見・感想」か
を切り分けて整理しておくことが、後の対応(返信・削除依頼・法的手続)に役立ちます。
Googleのポリシー上「違反の可能性が高い」口コミとは何か
Googleマップの口コミには、Googleのポリシー(投稿ルール)が定められており、例えば次のような内容は原則として禁止されています。
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卑猥な表現、脅迫・嫌がらせ行為
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特定の属性に対するヘイトスピーチ
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個人情報(住所・電話番号・メールアドレスなど)を晒すこと
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利用していないのに書いた虚偽のレビュー など
企業として特に注意すべきなのは、例えば次のような口コミです。
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「違法行為をしている」「詐欺だ」「犯罪だ」など、事実無根の断定的な非難
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実際には取引や来店の事実がないにもかかわらず、あったかのように書かれた虚偽の体験談
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特定の従業員の実名や特徴を挙げた上での過度な個人攻撃
こうした内容は、Googleのポリシー違反の可能性だけでなく、名誉毀損や脅迫といった法律上の問題にもつながる可能性があります。
一方で、次のような投稿は、「不快ではあるが、法的には難しい」領域に入ることも多くなります。
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「高い」「遅い」「対応が冷たい」など、サービスの満足度に関する主観的評価
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おおむね事実に沿った不満・苦情の表明
どこまでが許容される「評価・感想」で、どこからが違法な「誹謗中傷」と言えるのかは、個別具体的な判断が必要です。
弁護士に依頼せずに自力でできること:返信と削除依頼
誠実な返信で解決できるケース
Googleマップの口コミは、既存顧客だけでなく、これから利用を検討している方も読みます。
その意味で、事業者としての返信も「顔」の一部です。
誠実な返信で状況が落ち着くケースも少なくありません。
例えば:
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事実誤認がある場合でも、感情的にならず、簡潔に事実を訂正
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サービスに改善すべき点があった場合には、簡潔に謝意・謝罪と改善策を提示
などの対応をすることで状況が落ち着いたり、むしろ評価が高まったりすることもあります。
一方で、次のような返信は避けるべきです。
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投稿者を罵倒
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「名誉毀損で訴える」「法的措置を取る」などと、いきなり強い表現で恫喝
このような返信は、想定した効果がないどころか、スクリーンショットが拡散されて
二次的な炎上につながるおそれがあります。
Googleへの削除依頼(違反報告)の手順
Googleのポリシーに明らかに反していると思われる口コミについては、
ビジネスプロフィールから違反報告を行うことができます。
一般的な手順は、次のとおりです。
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問題となっている口コミの右上にある「…」メニューをクリック
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「クチコミを報告」を選択
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報告理由を選び、送信
もっとも、Google側の判断で「ポリシー違反ではない」とされれば削除されないこともありますし、
「クチコミを報告」の手順だけでは具体的な事情をGoogle側に十分に伝えきれないこともあります。
悪質なものについては、後述のように法的手続も視野に入れて検討する必要があります。
それでも削除されない・悪質な場合の選択肢(法的手続)
「削除依頼をしても対応されない」「社内外への影響が大きく、Googleへの報告だけでは足りない」
といった場合には、法的な手続を検討することになります。
代表的な手続きには、次のようなものがあります。
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削除仮処分
Googleや特定できている投稿者を相手に、裁判所に対して「口コミの削除」を仮に命じてもらう手続
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発信者情報開示請求
口コミの投稿者を特定するため、Googleや投稿者と契約しているプロバイダに投稿者情報の開示を求める手続
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損害賠償請求
発信者情報が開示され、投稿者が特定できた場合に、損害賠償や謝罪等を求める手続
これらは「どれか一つだけ」を選ぶこともできますが、
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削除仮処分と発信者情報開示請求を組み合わせる
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まずは発信者情報開示請求のみ行い、その後の交渉や対応は状況を見て決める
といった形で、事案ごとに手続の組み合わせや順番を設計すると効果的です。
Googleマップの口コミに関する裁判例も少しずつ蓄積してきていますが、
どのようなケースで削除や開示が認められやすいかにつきましては
個別事案に即した検討が必要です。
発信者情報開示請求を検討すべきケース/そうでないケース
検討すべき可能性が高いケース
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「犯罪」「違法行為」「詐欺」など、刑事事件を想起させるような断定的な非難がされている
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個人名と会社名を挙げ、人格攻撃的な投稿が繰り返されている
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顧客・取引先・採用候補者から、内容虚偽の口コミ内容について具体的な問い合わせが来ている
こうしたケースでは、単に削除を求めるだけでなく、
「誰が書いているのか」を特定し、再発防止や責任の明確化を図る必要があると考えられます。
慎重に考えるべき(または難しい)ケース
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価格・対応スピード・接客態度など、サービスの満足度に関する主観的なコメント
(例:質の割に値段が高い/提供が遅い/担当者の感じが悪かった 等) -
おおむね事実に沿った苦情で、会社側・事業者側にも明らかな改善余地があると考えられる場合
このようなケースでは、法的手続をとることが望ましいかどうか、
実効性はもちろん、広報上あるいは評判の観点も含めて慎重に検討する必要があります。
ログ保存期間の問題
発信者情報開示請求を検討する際に忘れてはならないのが、ログ保存期間の問題です。
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Google側・プロバイダ側に保存されているログ(アクセス記録など)は、一定期間が過ぎると消去される
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「どうするか迷っている」うちに時間が経ってしまうと、技術的にも実務的にも投稿者の特定が難しくなる
という現実があります。
「確実にやると決めてから相談する」のではなく、
迷っている段階で一度見通しを聞いておく方が、取れる選択肢は広くなりやすいといえます。
経営判断として押さえておきたいポイント
法的手続に踏み切るかどうかは、法的な観点だけで決められるものではありません。
少なくとも次のような要素を踏まえた経営判断になります。
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口コミ1件あたり、また累積としての経済的損失の規模
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採用・ブランドイメージ・社内士気への影響
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手続に要する時間・費用・社内リソース
残念ながら慰謝料(損害賠償)だけを目的にすると、「費用倒れ」になるような事案は少なくありません。
しかし、
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再発防止
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取締役会や株主への説明責任
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社内の安心感の確保
といった観点から、あえて手続きを取ることに意味があるケースもまた少なくありません。
また、「何もしない」という判断をする場合であっても、
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なぜそう判断したのか
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どのような選択肢があったのか
を記録として残しておくと、後に社内外から説明を求められた際、同種事案が発生した際に役立ちます。
再発防止・予防のためにできること
個別の口コミにどう対応するかだけでなく、再発防止・予防の観点も重要です。
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サービス側に問題があった場合
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クレーム対応フローの見直し
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店舗・窓口のオペレーション改善
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ネット上での対応
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日常的な口コミのモニタリング
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良い口コミへの返信(関係維持・ファンの可視化)
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Googleのポリシーに反する「やらせレビュー」(自作自演・金銭提供等)は厳禁
→ 「やらせ」はアカウント停止や信頼失墜につながるリスクがあり逆効果です
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風評対策会社等に依頼する場合の注意点
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違法な手法(隠れステマ、Googleポリシー違反のレビューの大量投稿など)に巻き込まれないよう、
契約内容や対策の実態を事前によく確認し、契約後も任せっきりにせずに対策内容をモニタリングする
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「ネット上の評価を完全にコントロールする」ことは現実的ではありませんが、
誠実なサービス提供と、誠実なネット対応の積み重ねが、長期的には最も強い防御になります。
いつ弁護士に相談すべきか
最後に、
「自力での削除依頼・返信で足りるケース」と
「弁護士に相談しておいた方がよいケース」の境目を簡潔に整理します。
自力で対応し得るケース(例)
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内容は厳しいが、投稿者の主観的な評価・感想の範囲に収まっている
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サービス改善や誠実な返信によって収束が見込まれる
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社外から特段の問い合わせや反応が来ていない
弁護士への相談を検討したいケース(例)
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社外(取引先・顧客・採用候補・金融機関等)から口コミ内容について具体的な問い合わせが来ている
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同種の投稿が複数あり、採用・取引・ブランドに明らかな悪影響が出始めている
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「犯罪」「違法行為」「詐欺」など、企業にとって重大な非難が含まれている
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投稿内容に大きな事実誤認があり、放置すると企業の名誉・信用が不当に損なわれる
こうした状況では、削除依頼や発信者情報開示請求を含め、
どの手段を取るべきか・取るべきでないかを整理しておくことが、
将来に向けたリスク管理にもつながります。

